前が動くより先に、中程にいた今まで圧迫されていたところが、弾けるようにもがきだす。 まだ先頭がほとんど進んでいないところへ、前へ前へと圧力がかかって来るので凄い。 止めているところがちょっと緩むと、足を少しも運ばなくても動きだすのだ。 ぼんでんも倒れないように、足で突っ張りを支ったままでも進みだす。 下も滑ってはいるのだが,体が浮いたようになって動きだすのだ。 なんとか踏ん張って、自分達のぼんでんを確実に維持しようと、夢中で頑張るしかない。 もちろんこの間も、ぼんでんは一人で持って歩き進めるのが基本だ。 ただでさえ重いぼんでんである。 ぼんでんどうしもぶつかり合うし、押されもする。 これを倒さずに進めることに、男達は意地を張るのだ。 | |
ぼんでんも、本郷橋を渡る頃には、大体順番が決まり進んでくるが、この橋を渡る時、風の強い日は気を付けないと大変なことになる。 あとは踏み切りを渡り国道を横切り、大沢橋を渡れば、どこのぼんでんも奉納に向けて準備を始める。 まず、ぼんでんを倒し、頭飾りを取り外し、さがり(布や麻糸・真綿など)を本体の篭にくくり着けるか中に収め、鉢巻きも先をはみ出さないように結ぶ。 これはみな、これから始まる奉納前のもみ合い・他のぼんでんとの競り合い・妨害を、最小限の被害で抜け出すための準備なのだ。 準備のできたぼんでんんから,(頭飾りは道路脇の雪に差して,帰りまで置いて行く)両側に杉の木立のある参道を「おにょうさん(仁王門)」に向かう。 | |
1番に門に着いたからといって、そのまま門を通すことはしない。 必ず4・5本立たる迄待ち、まず先頭から3本位までが突入態勢を取ると,残りのぼんでんの若衆が門の中に入り、通させまいと気勢を上げる。 1本だけだと完全に戻されるが、3本一緒に入るとかなり窮屈になり、ぼんでんもつぶれるが勢いは徐々にぼんでん側になる。 「ジョヤサ・ジョヤサ・ジョヤサ・ジョヤサ」 もうそこらじゅうが、熱気で湯気が上がる。 こうしているうちに、後続のぼんでんの若衆達も、門の裏側に回り阻止側に加勢に入る。 | |
本当にすごいもみ合いである。 腕も足も力が入らないような状態になる頃、やっと抜け出せる。 門を出るとすぐに山に入る、横にして来たぼんでんを今度は素早く立てないと、後ろからもぼんでんがかぶさってきて起こせなくなる。 みんなで力を合わせて何とか立たせ、1段づつ進め今度はぼんでんは数人で確保し止める。 他の人は一息入れたら、今度は阻止する側となる。 こうなると容易に門を通す事が出来なくなり、どこのぼんでんも大いに難儀をして出てくる。 なかには,さおが折れたり、はちまきがちぎれたり取れたり、さがりが取れてしまって裸になったぼんでんもある。 | |
それぞれが自分達の役割を果たしたら、山の上の本殿を目指してゆっくりと登る。 今までで十分に疲れているので、みんな口数が少なくなる。 出てくる言葉は決まって、「なんぼ来た。あと、なんぼ位だ。」 帰って来る言葉は大概、「半分来た、後半分だ、がんばれ」だ。 急に歓声が聞こえてくる。 まもなく山頂、本殿前の坂の下まで到着だ。 この場所に立つと雰囲気がまるで違う。 皆張り詰めた気を感じ、鳥肌が立つ。 | |
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