横手の送り盆
川原から上る
祭りは一気に最高潮
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堤防から川原へは太い丸太を筏のように組んだ坂、それは1 艘の舟が動けるだけの幅しかない。
川原側は扇状地の様に土盛りされている。 帰りの舟は当然最初からエキサイティングだ。
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最後の1 艘が、土盛りされた坂をまさに下り切ろうとするその時に、川原ですでに御霊を送った舟が一斉に動き出す。
1 艘だけしか上れない坂を制する為に、扇状地状の土砂利の坂を、舟を担いで登る。
当然条件の良い場所に集中する為、一気には上りきれず、途中で降ろして今度は押し合いである。
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見ている人達には良く分からない所ではあろうが、現在では一番エキサイトする場面であり、一番体力を消耗する所である。
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隣の舟と担木がかみ合うし、ただ単に押したのでは先が土に刺さって上がらないし、舟同士が密着している物だから、人が入れる場所が限られ、力の入れ様が難しく、しばらくは混乱状態となる。
一番喧嘩の起こりやすい状況であるし、また実際にあるのだ。
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下手をすると横に押し出され、横倒しになったり、落とされる危険もある訳で、船頭達の手腕に懸る。
何 艘か絡んだままで、揺すりながら少しづつ夫々の体勢を作って、勢いを付けて抜け出すなど、
何とか前の方が順位付けがなされると、一艘づつ丸太の坂の真中に置き、一息ついたら、坂の途中からでも、舟を担いで堤防まで一気に上がる。観客からは、ねぎらいの拍手が起こる。
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だが、下の方では一艘動くたびに、また競り合いである。
これがまだまだ続く訳だから、早く上がらなければと、何処の舟も必死なのである。 そしてこれから先にある、クライマックスの為にも、ここであまり体力を消耗する訳にはいかないのだ。
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先頭の舟は、堤防から橋へと進む。前には行く手を阻む何者も無い訳であるから、順調に帰路に就けるのだが、大概の舟は橋にかかるとクルリと向きを換え、後から来る舟と向かい合う形になる。
後方の舟を、簡単には進ませない、進めたいなら押しのけて行けという態勢なのだ。
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いつ頃からこういった形になったかは、調べたことがないので解らないが、現在80歳位の人達が若衆として活躍した頃の話を聞いても、同じかもっと強烈な事を既に行っていたというから、こうした形態になってからも、かなりの長い歴史があるという事になる。
帰りの舟は、完全に喧嘩舟の様相になるが、基本的には喧嘩は舟対舟で、決して野蛮な祭りではない事を強調しておきたい。 ただし、血気盛んな若者の勢いあまった喧嘩は、一寸のきっかけですぐに起こる。 だがその喧嘩もその場限りの、祭りだけのモノで、次の日には忘れられる事が基本である。
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今の舟は、何処の町内の物も皆綺麗に作られていて、そんな区別はしなくなったが、俺等が子どもの頃には、舟の形・作り方で「けんかぶね」と言われる区別があった。
こうした事に触れていると本題の方が進まなくなるので、一通り話が終わったらいろいろ書いて見たい。
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さあ、いよいよクライマックスだ。
- 堤防には既に4、5 艘があがり先の舟が橋に進むのを待つ。
前の方でタンコが打ち鳴らされた。 舟が肩に担がれる様は大波に乗るがごとく、揺れながら、しかし、すくと競り上がる。 続く舟も先をとろうと進む。
前の舟が橋に入り、タンコがなり一旦置かれるが、船頭の合図で笛やタンコが激しく鳴り、舟が180度回され後ろを向いた形でそこに置かれた。
- 続いてきた舟は、そこで前には進めない状態になった訳で、互いに舳先を合わせるような格好で向き合う事となる。
帰り舟であるから、先へ進む事が絶対である。 しかし、簡単に道は譲ってはもらえない。 そうなると力勝負、実力行使しか道はない。 道を開けなければ舟を乗せてツブシ、あるいは押し退けて進むぞと、舳先を上げて進む。
- この時を待っていたとばかりに、前をふさいでいた舟も一気に舳先を上げ、向かってくる舟に襲いかかる。
互いの舟が激しくぶつかり押し合い、舳先が組まれている内は、どんどん競り上がるくらいに押合われ、それがずれると、激しく地面に打ち付けられる。 そうなると今度は、相手の舟につかみ掛かり、あるいは乗って潰してしまおうと、互いにエキサイトする。
- 互いの舟に動きが無いとみると、船頭が若衆に合図し舟を引き離させる。
適当な距離を取り、態勢を整えたら、また、タンコが打ち鳴らされる。 舳先を上げ、今度こそはと、勢い良くぶつけられ押合われる。
- 決着はつかなくても後から何 艘も来る訳で、互いに拍手で健闘を称え合い、次の相手に備えて態勢を整える。
- 少しづつ動いた舟も、既に半分位は橋の上にある。
それぞれが向かい合い、あちこちで競り合いが起こる。
橋が揺れ動く位、横手若衆のエネルギーが、燃え上がるのだ。
- それぞれ何 艘かと2、3度づつぶつかると、いくら若い衆でも疲れが来る。
舟も痛み、歪みが出てくる。
- そうなってから無理をすると、怪我人が出る。
経験から潮時を心得て、帰る事を宣言する。
- 廻りからもねぎらいの拍手が起こる。
肩に担がれた舟がゆっくりと橋を後にする。
舟のあとから「サイサイ」が鳴らすお囃子も祭りの終わりをつたえてる。
- 露天商の店のある通りを、ゆっくりと町内へ向かう。
「祭りが終わったな。」張り詰めていたものが緩み、心地よい疲労感を、
ちょっと寂しさを、秋風と共に感じる。
おわり
☆ 現在は、新しい橋・堤防・河川敷になり少しづつ祭りの様子が変わってきました。
いたましい死亡事故などの経験から危険防止が最重要視され、祭りの中にまで規制の手が入り過ぎた感があります。
止もう得ない部分も有りますが、横手のお祭りらしさはいつまでも残して欲しいと思います。
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